「薬膳って難しそう」「特別な食材が必要なのでは?」そう思っていませんか。実は、生姜、ねぎ、シナモン、クミンといった身近なハーブやスパイスも、薬膳の立派な食材です。香りを使って気を巡らせ、体を温め、整えることができます。

この記事では、薬膳の基本的な考え方から、まず揃えたいハーブ・スパイス、料理別の黄金コンビ、調理のコツ、季節・体質別の選び方、応用レシピまで、台所で始める”漢方ごはん”の入門知識を完全網羅してお届けします。


薬膳の考え方をやさしく解説 ― ハーブ・スパイスとの関係とは?

薬膳とは?「五性」「五味」「帰経」をわかりやすく整理

薬膳とは、食材の性質を理解し、体質や季節に合わせて食事を整える中国伝統の知恵です。薬膳では、すべての食材を「五性」「五味」「帰経」で分類します。

五性(ごせい):食材が体に与える温度的な影響です。

  • 熱性・温性:体を温める(生姜、シナモン、ねぎ)
  • 平性:どちらでもない(米、豆腐、卵)
  • 涼性・寒性:体を冷やす(きゅうり、トマト、ミント)

五味(ごみ):食材の味の性質です。

  • 酸味:収斂作用(梅干し、レモン)
  • 苦味:清熱作用(ゴーヤ、苦瓜)
  • 甘味:補う作用(米、芋、ナツメ)
  • 辛味:発散・巡らせる作用(生姜、ねぎ、唐辛子)
  • 鹹味(かんみ・塩辛い):軟化・下降作用(海藻、貝類)

帰経(きけい):食材がどの臓器に働きかけるかを示します。

  • 肝・心・脾・肺・腎の五臓に対応します。

この分類を理解することで、体質や症状に合わせた食材選びができます。

ハーブ・スパイス・漢方食材のちがいを知る

ハーブ:主に西洋で使われる香草です。ミント、バジル、ローズマリー、タイム、セージなどがあります。香りが良く、料理の風味を引き立てます。薬膳では、理気作用(気を巡らせる)や清熱作用(熱を冷ます)を持つものが多いです。

スパイス:主に香辛料として使われます。生姜、シナモン、クミン、カルダモン、クローブ、八角、花椒などがあります。体を温める作用が強く、薬膳では温中・散寒(体を温め、冷えを追い出す)や理気作用を持ちます。

漢方食材:薬膳で使われる食材や生薬です。陳皮(みかんの皮)、クコの実、ナツメ、白きくらげ、黒きくらげ、山薬(長芋)、蓮の実などがあります。補気・養血・滋陰といった体を根本から整える作用を持ちます。

共通点:すべて「香り」を持ち、気を巡らせる働きがあります。薬膳では、ハーブもスパイスも漢方食材も、体を整えるための道具として同じように扱います。

薬膳でハーブを使う意味 ― 香りで「気」を巡らせる理屈

薬膳では、香りは「気」を巡らせる重要な要素です。気の巡りが滞ると、お腹の張り、ゲップ、イライラ、ため息、胸のつかえといった症状が現れます。香りのある食材は、この気の滞りを解消します。

香りの働き

  • 嗅覚を刺激し、脳に働きかけます。
  • 気分をリフレッシュさせ、ストレスを和らげます。
  • 消化液の分泌を促し、食欲を増進させます。
  • 気の巡りを良くし、体全体のバランスを整えます。

ハーブやスパイスの香りを日常的に取り入れることで、気の巡りが良くなり、体が整います。

日常の料理に”薬膳の視点”を取り入れるコツ

薬膳は特別なものではありません。日常の料理に、ちょっとした工夫を加えるだけで、薬膳料理になります。

コツ1:自分の体質を知る

  • 冷え性なら、温性の食材(生姜、ねぎ、シナモン)を多めに使います。
  • 体に熱がこもりやすいなら、涼性の食材(ミント、きゅうり、トマト)を取り入れます。

コツ2:季節に合わせる

  • 冬は体を温める食材、夏は体を冷ます食材を選びます。

コツ3:香味を意識する

  • 料理に生姜、ねぎ、にんにく、陳皮、山椒などの香味を加えます。

コツ4:色のバランスを整える

  • 五色(青・赤・黄・白・黒)を意識して、彩り豊かな食卓にします。

コツ5:食べすぎない

  • 腹八分目が、薬膳の基本です。

これらを意識するだけで、日常の料理が薬膳料理に変わります。


まず揃えたい!薬膳で使えるハーブ・スパイス・漢方食材10選

【温める】生姜・シナモン・クローブ(丁子) ― 冷え・代謝アップに◎

生姜(しょうが)

  • 温性・辛味、脾・胃・肺に働きかけます。
  • 体を温め、冷えを追い出します。消化を助け、吐き気を止めます。
  • 使い方:薄切り、千切り、すりおろして、炒め物、スープ、煮物に。
  • おすすめ:生姜湯、生姜紅茶、生姜焼き

シナモン(桂皮・けいひ)

  • 熱性・甘味・辛味、心・肝・腎に働きかけます。
  • 体を強く温め、血の巡りを良くします。冷えによる痛み(腹痛、生理痛)を和らげます。
  • 使い方:パウダーまたはスティックで、紅茶、コーヒー、スープ、煮物、焼き菓子に。
  • おすすめ:シナモンティー、シナモンロール、シナモン入りカレー

クローブ(丁子・ちょうじ)

  • 温性・辛味、脾・胃・腎に働きかけます。
  • 体を温め、胃腸を整えます。吐き気、しゃっくり、お腹の冷えを改善します。
  • 使い方:ホールまたはパウダーで、カレー、煮込み料理、チャイに。
  • おすすめ:チャイ、スパイスカレー、クローブ入りシチュー

冷え性の人、代謝を上げたい人に最適です。

【巡らせる】陳皮・山椒・クミン ― 胃腸を整え、食欲不振を改善

陳皮(ちんぴ)

  • 温性・辛味・苦味、脾・肺に働きかけます。
  • 気の巡りを良くし、お腹の張りを解消します。消化を助け、食欲不振を改善します。
  • 使い方:みかんの皮を乾燥させたもの。煮物、スープ、お茶に。
  • おすすめ:陳皮茶、陳皮入りスープ、陳皮粉末を料理に振りかける

山椒(さんしょう)

  • 温性・辛味、脾・胃・腎に働きかけます。
  • 気を巡らせ、体を温めます。ピリッとした辛味が食欲を増進させます。
  • 使い方:粉末または実をそのまま。魚料理、焼き物、麻婆豆腐に。
  • おすすめ:うなぎの蒲焼き、焼き魚、麻婆豆腐

クミン

  • 温性・辛味、脾・胃に働きかけます。
  • 気を巡らせ、消化を助けます。羊肉や牛肉の臭み消しに最適です。
  • 使い方:ホールまたはパウダーで、カレー、炒め物、羊肉料理に。
  • おすすめ:クミン炒め、スパイスカレー、羊肉の炒め物

胃腸が弱い人、食欲がない人、お腹が張りやすい人に最適です。

【潤す】白きくらげ・クコの実 ― 乾燥・肌あれにうるおいチャージ

白きくらげ(しろきくらげ)

  • 平性・甘味、肺・胃に働きかけます。
  • 体を潤し、乾燥肌、喉の乾き、空咳を改善します。コラーゲン様成分が豊富で、美肌効果も期待できます。
  • 使い方:乾燥品を水で戻して、スープ、デザートに。
  • おすすめ:白きくらげのスープ、白きくらげと梨のデザート

クコの実(枸杞子・くこのみ)

  • 平性・甘味、肝・腎に働きかけます。
  • 体を潤し、血を補います。目の疲れ、肌の乾燥、めまい、腰のだるさを改善します。
  • 使い方:そのまま、またはお茶やスープに。
  • おすすめ:クコの実茶、薬膳スープ、お粥にトッピング

乾燥肌、目の疲れ、体が乾燥している人に最適です。

【清める】ミント・菊花 ― 目の疲れ・ほてりをリセット

ミント(薄荷・はっか)

  • 涼性・辛味、肺・肝に働きかけます。
  • 体の余分な熱を冷まし、ほてり、のぼせ、イライラを改善します。気を巡らせ、頭をすっきりさせます。
  • 使い方:フレッシュまたはドライで、ハーブティー、サラダ、デザートに。
  • おすすめ:ミントティー、モヒート、ミント入りサラダ

菊花(きっか)

  • 涼性・甘味・苦味、肺・肝に働きかけます。
  • 体の熱を冷まし、目の疲れ、充血、頭痛を改善します。リラックス効果もあります。
  • 使い方:ドライで、お茶に。
  • おすすめ:菊花茶、菊花とクコの実のお茶

体に熱がこもりやすい人、目の疲れ、ほてりが気になる人に最適です。

まずは”3種類”から始めよう!使いやすい常備薬膳の選び方

薬膳初心者は、まず次の3種類を常備することをおすすめします。

1. 生姜:体を温め、消化を助ける万能食材。冷え性の人には必須です。

2. 陳皮:気の巡りを良くし、お腹の張りを解消します。みかんの皮を乾燥させて作れます。

3. クコの実:体を潤し、目の疲れを和らげます。お茶やスープに入れるだけで手軽に使えます。

この3種類があれば、日常の料理に薬膳の視点を取り入れられます。


【肉・魚・野菜】料理別に見る!ハーブ&スパイスの黄金コンビ

【肉料理】鶏肉×生姜×ねぎで”温中・健脾”効果アップ

薬膳的な働き

  • 鶏肉:温性・甘味、補気養血
  • 生姜:温性・辛味、温中散寒
  • ねぎ:温性・辛味、発汗解表

効果:体を温め、冷えを防ぎ、消化を助けます。風邪の初期症状にも効果的です。

おすすめレシピ

  • 鶏肉と長ねぎの生姜炒め
  • 鶏肉の生姜スープ
  • 鶏鍋に生姜とねぎをたっぷり入れる

【魚料理】鮭×陳皮×白ねぎで”潤肺・理気”の整う一皿

薬膳的な働き

  • 鮭:温性・甘味、補気養血
  • 陳皮:温性・辛味・苦味、理気健脾
  • 白ねぎ:温性・辛味、発汗解表

効果:体を潤し、気の巡りを良くし、消化を助けます。乾燥と冷えに悩む人に最適です。

おすすめレシピ

  • 鮭と陳皮の蒸し物
  • 鮭と白ねぎのホイル焼き

【野菜料理】白菜×山椒×黒酢で”巡り+冷え対策”のバランス食

薬膳的な働き

  • 白菜:平性・甘味、清熱利水
  • 山椒:温性・辛味、温中行気
  • 黒酢:温性・酸味、活血化瘀

効果:気の巡りを良くし、体を温め、血流を促進します。

おすすめレシピ

  • 白菜と豚肉の山椒炒め
  • 白菜の黒酢漬け

【スープ】クコの実×棗×シナモンで”血を補う”やさしい薬膳スープ

薬膳的な働き

  • クコの実:平性・甘味、滋陰養血
  • ナツメ(棗):温性・甘味、補気養血
  • シナモン:熱性・甘味・辛味、温中散寒

効果:血を補い、体を温め、疲労回復を促します。

おすすめレシピ

  • クコの実とナツメのシナモンスープ
  • 鶏肉とクコの実、ナツメのスープ

家庭料理に薬膳の知恵を取り入れる3ステップ

ステップ1:自分の体質を知る(冷え性、乾燥肌、疲れやすいなど)

ステップ2:体質に合ったハーブ・スパイスを選ぶ(生姜、陳皮、クコの実など)

ステップ3:日常の料理に加える(炒め物、スープ、お茶など)

この3ステップで、誰でも簡単に薬膳を始められます。


調理で変わる!ハーブ&スパイスの効果と注意点

炒め・煮る・蒸すで”効能の出方”が変わる理由

炒める:高温で短時間加熱するため、香りが立ち上がり、温める力が強まります。生姜、にんにく、ねぎは炒めることで、温補効果が高まります。

煮る:水分と一緒にじっくり加熱するため、成分がスープに溶け出します。陳皮、シナモン、クローブは煮込むことで、効能がスープ全体に広がります。

蒸す:穏やかな熱で加熱するため、食材の気を保ちやすいです。クコの実、白きくらげは蒸すことで、滋陰効果が保たれます。

調理法を工夫することで、ハーブ・スパイスの効能を最大限に引き出せます。

香りの飛びすぎを防ぐ”タイミング別の使い方”

炒め始め:フライパンに油を熱し、ホールスパイス(八角、桂皮、花椒など)を入れて香りを出します。

調理中:生姜、にんにく、ねぎを加えて炒めます。

仕上げ:パウダースパイス(陳皮、山椒、シナモンなど)やフレッシュハーブ(ミント、パクチー)を加えます。

仕上げに加えることで、香りが立ち、風味が引き立ちます。

刺激が強いスパイスの扱い方 ― 食べすぎ注意と量の目安

刺激が強いスパイス:唐辛子、花椒、黒胡椒、クローブなど

食べすぎの注意

  • 胃腸に負担をかけることがあります。
  • 体に熱がこもりやすい人は、控えめにしましょう。

量の目安

  • 唐辛子:小さじ1/4〜1/2
  • 花椒・黒胡椒:小さじ1/4〜1/2
  • クローブ:2〜3粒

適量を守ることで、安全に楽しめます。

体質別に変える ― 気虚・血虚・陰虚・陽虚の使い分け

気虚タイプ(疲れやすい):生姜、シナモン、ナツメ、陳皮

血虚タイプ(顔色が悪い):クコの実、ナツメ、黒ごま

陰虚タイプ(体が乾燥する):白きくらげ、クコの実、はちみつ

陽虚タイプ(冷え性):生姜、シナモン、クローブ、ねぎ

体質に合わせた使い分けで、より効果的に体が整います。


季節と体質で変えるハーブ&スパイスの選び方

冬は温補(シナモン・生姜・ねぎ)で冷え対策

冬は寒さで体が冷えるため、温性のハーブ・スパイスを多めに使います。シナモン、生姜、ねぎ、にんにく、クローブ、花椒など。温かいスープや鍋、煮込み料理に加えましょう。

春は理気(陳皮・山椒・山椒)で気の巡りを促す

春は気の巡りが滞りやすい季節です。陳皮、山椒、ミント、パクチーなど、理気作用のあるハーブ・スパイスを使います。炒め物やサラダに加えましょう。

夏は清熱(ミント・菊花・レモングラス)で暑気払い

夏は体に熱がこもりやすいため、涼性のハーブを使います。ミント、菊花、レモングラス、バジルなど。ハーブティーやサラダ、冷製スープに加えましょう。

秋は滋陰(白きくらげ・クコの実・はちみつ)で乾燥ケア

秋は乾燥しやすい季節です。白きくらげ、クコの実、はちみつ、梨など、体を潤す食材を使います。スープやデザートに加えましょう。

【体質別】気虚・血虚・陰虚・陽虚タイプにおすすめの香味早見表

体質 おすすめハーブ・スパイス
気虚 生姜、シナモン、ナツメ、陳皮
血虚 クコの実、ナツメ、黒ごま
陰虚 白きくらげ、クコの実、はちみつ、菊花
陽虚 生姜、シナモン、クローブ、ねぎ、にんにく

さらに深めたい人へ ― 和名・生薬名・英名対応&活用レシピ集

よく混同される!山椒と花椒の違い・使い分け

山椒(さんしょう):日本原産。実や若葉を使います。ピリッとした辛味と爽やかな香りが特徴です。うなぎの蒲焼き、焼き魚、吸い物に使います。

花椒(ホアジャオ):中国原産。しびれるような辛味が特徴です。麻婆豆腐、四川料理、羊肉料理に使います。

どちらも温性で気を巡らせますが、花椒の方が刺激が強いです。

和名⇄生薬名⇄英名の”照らし合わせ早見表”

和名 生薬名 英名
生姜 生姜(しょうきょう) Ginger
シナモン 桂皮(けいひ) Cinnamon
陳皮 陳皮(ちんぴ) Dried tangerine peel
クコの実 枸杞子(くこし) Goji berry
ナツメ 大棗(たいそう) Jujube
白きくらげ 白木耳(はくもくじ) White fungus
山椒 山椒(さんしょう) Japanese pepper
花椒 花椒(かしょう) Sichuan pepper
クローブ 丁子(ちょうじ) Clove
菊花 菊花(きっか) Chrysanthemum

【応用】ブレンドティー・薬膳スープ・調味油の基本レシピ

薬膳ブレンドティー

  • クコの実5粒+ナツメ2個+菊花3輪
  • 熱湯を注ぎ、5分蒸らします。
  • 目の疲れ、乾燥、疲労回復に効果的です。

薬膳スープ

  • 鶏肉+生姜+ナツメ+クコの実+シナモン
  • 水で1時間煮込みます。
  • 気血を補い、体を温めます。

薬膳調味油

  • ごま油+生姜+ねぎ+花椒
  • 弱火で香りを出します。
  • 炒め物や焼き物の仕上げに使います。

信頼できる薬膳・スパイスの参考書籍&資格リンク集

参考書籍

  • 『はじめての薬膳』
  • 『薬膳・漢方の食材帳』
  • 『スパイス&ハーブの使い方』

資格

  • 薬膳アドバイザー
  • 薬膳コーディネーター
  • 国際薬膳師

まとめ

薬膳は特別なものではなく、日常の料理に香りと工夫を加えるだけで始められます。生姜、シナモン、陳皮、クコの実といった身近なハーブ・スパイスを使うことで、体を温め、気を巡らせ、潤いを補うことができます。

季節や体質に合わせて、ハーブ・スパイスを選び、調理法を工夫することで、体のバランスが整います。今日から、台所で”漢方ごはん”を始めて、体に優しい食卓を作ってみてください。