「しゃぶしゃぶって脂っこくないから胃にやさしいよね?」 そう思いながら、つい食べ過ぎて胃もたれしてしまった経験はありませんか。

しゃぶしゃぶは確かに油で揚げたり炒めたりする料理に比べると脂を落とせる調理法ですが、肉の部位や調理の仕方によって脂の落ち方は大きく変わります。薬膳の視点から見ると、肉の種類や体質に合わせた選び方、そして調理のコツを押さえることで、より胃腸にやさしいしゃぶしゃぶを楽しむことができるのです。

この記事では薬膳の考え方を基に、しゃぶしゃぶの肉から上手に脂を抜く方法と、胃腸にやさしく食べるためのポイントをお伝えしていきます。 肉の選び方から調理法、食べ方のコツまで、今日から実践できる情報をマスターしていきましょう!

しゃぶしゃぶで脂はどのくらい落ちる?基本の仕組み

しゃぶしゃぶが胃にやさしいと言われる理由の一つが、お湯にくぐらせることで余分な脂を落とせることです。しかし、具体的にどのくらいの脂が落ちるのか、その仕組みを理解している人は意外と少ないもの。

ここでは、しゃぶしゃぶで脂が落ちるメカニズムと、効果的に脂を落とすための基礎知識をお話ししていきます。

しゃぶしゃぶの”湯通し効果”で脂が落ちる理由

しゃぶしゃぶで脂が落ちる最大の理由は、肉を熱湯に通すことで脂肪が溶け出すからです。

肉に含まれる脂肪は温度が上がると液体化し、お湯の中に流れ出ていきます。特に霜降り肉やバラ肉など脂身の多い部位は、湯通しすることで表面の脂が大量に溶け出し、鍋の表面に浮いてくるのが確認できるはず。

薬膳では、余分な脂肪は「痰湿」を生み出す原因とされています。したがって、湯通しによって脂を落とすことは、胃腸の負担を減らすだけでなく、体に不要な湿気を溜めないための有効な手段なのです。

部位や切り方による脂落ちの違い

肉の部位によって、しゃぶしゃぶで落ちる脂の量は大きく異なります。

赤身肉は元々脂肪分が少ないため、湯通ししてもさほど脂は落ちません。一方で、バラ肉やロースといった霜降りの部位は、しゃぶしゃぶすることで30〜40%程度の脂を落とすことができるとされています。

また、肉の切り方も重要なポイント。薄切りにすることで表面積が増え、より多くの脂が湯に溶け出しやすくなります。厚切り肉では中心部の脂が残りやすいため、胃腸への負担を減らしたい場合は薄切りを選ぶべきでしょう。

脂を落としすぎると味や栄養はどうなる?

脂を落とせば落とすほど良いかというと、必ずしもそうではありません。

肉の脂には旨味成分が含まれており、落としすぎると味気ない仕上がりになってしまいます。さらに、脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)も脂と一緒に失われるため、栄養価も下がることに。

薬膳では「過ぎたるは及ばざるが如し」という考え方を大切にします。適度に脂を落としつつ、肉本来の旨味と栄養を残すバランスが重要です。完全に脂を取り除くのではなく、胃腸が受け止められる範囲で楽しむことを心がけてください。

薬膳から見た肉の効能|牛・豚・鶏の性質と胃腸への影響

薬膳において、肉の種類によってそれぞれ異なる効能があると考えられています。しゃぶしゃぶで使う肉を選ぶ際も、この考え方を取り入れることで、より体にやさしい食べ方ができるのです。

ここからは、牛・豚・鶏それぞれの特徴と、薬膳的に見たしゃぶしゃぶ向きの肉選びをご紹介していきます。

牛肉:補気作用があるが胃に重くなりやすい

牛肉は薬膳において「気を補い、筋骨を強くする」食材とされています。

疲労回復や体力増強に優れており、貧血気味の方や体力が落ちている時には頼もしい存在です。また、良質なたんぱく質や鉄分も豊富に含まれているため、栄養面でも優秀。

しかし、牛肉は消化に時間がかかる食材でもあります。特に霜降りの部位は脂肪分が多く、胃もたれの原因になることも。しゃぶしゃぶで食べる際は、赤身の多い部位を選んだり、しっかりと脂を落としたりする工夫が必要です。

豚肉:潤いを与えるが冷えやすい人は注意

豚肉には「陰液を補い、体を潤す」効能があります。

肌の乾燥が気になる方や便秘がちな方、のどが渇きやすい人には特に適した食材です。さらに、ビタミンB1が豊富で疲労回復効果も期待できます。

ただし、薬膳では豚肉を「やや冷やす性質」を持つ食材として分類。冷え性の方や胃腸が冷えやすい体質の人は、食べ過ぎに注意が必要です。生姜や唐辛子など体を温める薬味を添えることで、この性質を中和できます。

鶏肉:脾胃を助け消化によい万能肉

鶏肉は薬膳において「脾胃の働きを助ける」代表的な肉類です。

消化吸収を促進し、胃腸の調子を整える効果が期待できるため、胃腸が弱い方でも安心して食べられます。また、体を適度に温める性質があり、冷え対策にも効果的。

しゃぶしゃぶでは鶏肉を使うことは少ないかもしれませんが、実は薬膳的には最もおすすめの選択肢です。胸肉やささみなら脂肪分も少なく、あっさりとした味わいで胃腸への負担を最小限に抑えられるでしょう。

薬膳的に選ぶしゃぶしゃぶ向け肉のポイント

あなたの体質に合わせて肉を選ぶことが、薬膳しゃぶしゃぶの第一歩です。

体力が落ちている時には、気を補う牛肉の赤身部位がおすすめ。ただし、胃腸が弱っている場合は避けた方が無難です。

乾燥が気になる時は、潤す作用のある豚肉を選び、温める薬味と組み合わせてください。ロースやモモ肉など、比較的脂が少ない部位を選ぶとバランスが良くなります。

胃腸の調子が優れない時は、鶏肉が最適。鶏むね肉のしゃぶしゃぶは、脂肪分が少なく消化しやすいため、回復期の食事としても優秀です。

肉の脂を上手に抜くしゃぶしゃぶのコツ

せっかくしゃぶしゃぶを選んでも、調理法を誤ると十分に脂を落とせません。ここでは、肉から効果的に脂を抜きながら、おいしさを保つための具体的なテクニックをお伝えしていきます。

これらのコツを実践するだけで、同じ肉でも胃腸への負担が大きく変わってくるはずです。

お湯の温度は70〜80℃が理想

しゃぶしゃぶのお湯の温度は、脂の落ち方に大きく影響します。

理想的な温度は70〜80℃程度。この温度帯では肉の脂が適度に溶け出しながら、たんぱく質が急激に固まることもありません。お湯が沸騰している状態だと肉が硬くなり、逆に低すぎると脂が十分に落ちないため注意が必要です。

薬膳では、食材を「適温」で調理することを重視します。温度が高すぎると食材の性質が変わり、本来の効能が失われることもあるとされているのです。したがって、グツグツと煮立てるのではなく、ゆらゆらと湯気が立つ程度の温度を保つことがポイントになります。

しゃぶしゃぶする時間の目安

肉をお湯にくぐらせる時間も、脂の落ち方と食感を左右する重要な要素です。

一般的には、薄切り肉で3〜5回ほど箸で動かすのが目安。時間にすると10〜15秒程度でしょう。この時間であれば、表面の脂が落ち、中心部は適度な火の通り具合になります。

ただし、脂身の多い部位はもう少し長めに、15〜20秒ほどかけるとより多くの脂を落とせます。逆に赤身肉は火を通しすぎると硬くなるため、短めの時間でサッと仕上げてください。肉の表面が少しピンク色から白っぽく変わったタイミングが、食べ頃のサインです。

脂を浮かせる工夫(アク取り・油取り紙)

しゃぶしゃぶ中に浮いてくる脂は、こまめに取り除くことが大切です。

アク取り用のお玉を使って、鍋の表面に浮いた脂をすくい取りましょう。また、市販の「油取り紙」や「あぶらとりシート」を鍋に浮かべる方法も効果的。これらのアイテムは脂だけを吸着してくれるため、だしの旨味を損なうことなく余分な脂を除去できます。

薬膳的な観点からも、調理中に浮いた脂を放置すると、それが再び肉に付着したり、野菜に絡んだりして結局体内に取り込まれてしまいます。こまめな脂取りが、胃腸への負担軽減につながるのです。

脂を落としつつ旨味を逃がさないポイント

脂を落とすことに集中しすぎて、肉本来のおいしさまで失ってしまっては本末転倒です。

旨味を保つコツは、一度にたくさんの肉を入れすぎないこと。大量の肉を入れるとお湯の温度が下がり、脂が十分に落ちないだけでなく、肉同士がくっついて食感も悪くなります。1〜2枚ずつ丁寧にしゃぶしゃぶすることで、適度に脂を落としながら旨味も保てるのです。

また、肉をしゃぶしゃぶする順番も重要。最初に野菜を入れて甘みを出してから肉を食べると、だしに旨味が加わり、少ない脂でも満足感が得られます。

胃にやさしい薬膳しゃぶしゃぶだしとおすすめ具材

しゃぶしゃぶのだしと具材を工夫することで、さらに胃腸にやさしい料理に仕上がります。薬膳の考え方を取り入れた具材選びをすることで、消化を助けたり体を温めたりする効果が期待できるのです。

ここでは、薬膳的におすすめのだしと具材をご紹介していきます。

健脾作用のある食材(白菜・山芋・大根)

薬膳において「脾胃を健やかにする」とされる食材を積極的に取り入れましょう。

白菜は胃腸を整え、体に溜まった余分な熱を冷ます作用があります。しゃぶしゃぶの定番具材としても人気で、甘みがだしに溶け出して旨味をプラスしてくれる優れもの。

山芋は脾胃の働きを補強する代表的な薬膳食材。すりおろしてつけだれに混ぜたり、薄切りにして鍋に入れたりすることで、消化を大きく助けてくれます。

大根には消化酵素が豊富に含まれており、肉のたんぱく質を分解する働きがあります。大根おろしにしてつけだれに加えると、さらに効果的です。

温中作用のある薬味(生姜・ねぎ・陳皮)

体を温めながら消化を助ける薬味も、しゃぶしゃぶには欠かせません。

生姜は胃を温め、消化機能を活性化させる最高の薬味。千切りにしてつけだれに加えたり、だしに少量入れたりすることで、冷やす性質のある豚肉とのバランスも取れます。

ねぎにも胃腸の働きを促進する作用があり、特に白い部分は体を温める効果が高いとされています。刻んでつけだれに入れるだけでなく、鍋に入れて煮込むのもおすすめ。

陳皮(みかんの皮を乾燥させたもの)は、気の巡りを良くし、胃もたれを防ぐ効果があります。だしに2〜3片加えることで、さわやかな香りとともに胃腸ケア効果が得られるでしょう。

化湿に役立つ食材(冬瓜・はと麦・きのこ類)

体に余分な水分が溜まりやすい方には、「化湿」の効果がある食材を選びましょう。

冬瓜は利尿作用があり、体内の余分な湿気を取り除く働きがあります。淡白な味わいでしゃぶしゃぶのだしとも相性抜群。

はと麦はお米と一緒に炊いて、しゃぶしゃぶの締めの雑炊に使うのがおすすめ。胃腸に溜まった湿気を排出し、消化機能を正常化してくれます。

きのこ類(しいたけ、えのき、舞茸など)は脂肪の吸収を抑える働きがあり、食物繊維も豊富。複数の種類を組み合わせることで、旨味と健康効果の両方が得られます。

季節や体質に合わせただしアレンジ例

薬膳では、季節や個人の体質に合わせて食材を選ぶことが重要視されます。

春・夏は体に熱がこもりやすいため、あっさりとした昆布だしがおすすめ。トマトや豆腐を加えると、さらに体の熱を取り除く効果が高まります。

秋・冬は体を温めることが大切なので、鶏ガラや生姜を効かせただしが適しています。根菜類を多めに入れることで、体を内側から温められるでしょう。

冷え性の方には、生姜・ねぎ・にんにくを効かせた温め系のだしを。熱っぽい体質の方には、昆布ベースのシンプルなだしに白菜や豆腐を多めに入れた組み合わせがバランス良く仕上がります。

食べ方で変わる!胃もたれ防止のポイント

いくら脂を落とした肉を選んでも、食べ方次第で胃もたれは起こります。最後に、しゃぶしゃぶを胃にやさしく楽しむための食べ方のコツをお伝えしていきます。

これらのポイントを押さえるだけで、翌日の体調が大きく変わってくるはずです。

野菜から食べると脂の吸収を和らげる

しゃぶしゃぶを食べる順番は、胃腸への負担を左右する重要な要素です。

理想的なのは、まず野菜から食べ始めること。食物繊維を先に摂取することで、後から入ってくる脂肪の吸収を緩やかにする効果があります。特に白菜やキャベツなどの葉物野菜は、胃壁を保護する働きもあるため最初に食べるべき。

また、きのこ類も早めに食べておくと、脂肪の吸収抑制効果が高まります。肉は野菜をある程度食べてから、ゆっくりと楽しむようにしてください。薬膳では「先野菜、後肉」という考え方があり、これは消化の観点からも理にかなった食べ方なのです。

適量の目安とおすすめの時間帯

どんなに胃にやさしい食べ方をしても、量が多ければ胃もたれは避けられません。

しゃぶしゃぶの肉は一人前あたり150〜200g程度が適量とされています。これは手のひらを広げた面積に薄切り肉を並べた程度の量。特に脂身の多い部位を選ぶ場合は、100〜150g程度に抑えることをおすすめします。

食べる時間帯も重要で、理想は昼食から夕方6時頃まで。この時間帯なら胃腸の働きが活発で、効率よく消化できます。夜遅い時間に食べると、消化に時間がかかり睡眠の質も低下するため、できるだけ早めの時間に楽しむようにしてください。

つけだれ選びでさらに脂をカット(ポン酢・大根おろしなど)

つけだれの選び方も、胃腸への負担を左右します。

最もおすすめなのがポン酢。柑橘類の酸味には脂肪の分解を助ける働きがあり、さっぱりとした味わいで食べ過ぎも防げます。また、ポン酢自体がカロリーも低く、胃への負担が少ない点も魅力。

大根おろしを加えることで、消化酵素の効果がさらにアップ。肉のたんぱく質を分解しやすくなり、胃もたれのリスクが減ります。

逆に避けたいのが、ごまだれやゴマ油ベースのつけだれ。これらは脂質が多く、せっかく肉の脂を落としても意味がなくなってしまいます。どうしてもごまだれを使いたい場合は、ポン酢と1:1で割るなどして脂質を減らす工夫をしてみてください。

【さらに知りたい】外食やテイクアウトで脂を抑えるしゃぶしゃぶの工夫

外食やテイクアウトのしゃぶしゃぶでも、選び方や食べ方を工夫することで胃腸への負担を軽減できます。自宅で作る時とは少し違ったポイントを押さえることが大切です。

ここでは、外で楽しむしゃぶしゃぶをより胃にやさしくするための実践的な方法をご紹介していきます。

店で注文するときの部位・鍋選び

外食でしゃぶしゃぶを注文する際は、メニュー選びがすべてです。

肉の部位では、赤身の多いモモ肉やヒレ肉を選ぶことが基本。霜降りやカルビなど脂身の多い部位は避けた方が無難です。また、食べ放題の場合は、ついつい食べ過ぎてしまうため注意が必要。最初から量を決めて、それ以上は頼まないという意識を持つことが大切でしょう。

だしの種類も選べる場合は、昆布だしや野菜だしなどあっさり系を選んでください。濃厚な鶏白湯や豚骨ベースのだしは、それ自体に脂が多く含まれているため、胃腸への負担が増します。

脂を減らす食べ合わせ(薬味・副菜)

外食では提供される薬味や副菜を最大限活用しましょう。

薬味コーナーがある店では、生姜・ねぎ・大根おろし・もみじおろしなどを積極的に取り入れてください。これらを多めにつけだれに入れることで、消化を助ける効果が得られます。

また、野菜の盛り合わせを追加注文することもおすすめ。白菜・水菜・春菊・きのこ類を多めに食べることで、肉の脂の吸収を抑えられます。サラダやナムルなどの副菜も先に食べておくと、胃腸の準備運動になって良いでしょう。

意外と見落としがちなのが、温かいお茶を飲むこと。冷たいドリンクは胃腸を冷やして消化力を低下させるため、できるだけ温かいお茶や白湯を選んでください。

食後ケアにおすすめの薬膳茶

しゃぶしゃぶを食べた後のケアも、胃腸の健康には重要です。

ウーロン茶は脂肪の吸収を抑える効果があり、食後30分以内に飲むと最も効果的。温かい状態で飲むことで、消化も促進されます。

プーアル茶にも脂肪分解作用があり、特に重い食事の後におすすめ。胃腸を温めながら余分な脂を取り除く働きがあります。

自宅に戻ったら、生姜湯陳皮茶を飲むのも良い選択肢。生姜湯は胃を温めて消化機能を活性化させ、陳皮茶は気の巡りを良くして胃もたれを防いでくれます。これらのお茶を就寝前に飲むことで、翌朝の胃腸の調子が大きく変わってくるはずです。

まとめ

しゃぶしゃぶは調理法自体が胃にやさしい料理ですが、肉の選び方や調理のコツを押さえることで、さらに胃腸への負担を減らせます。

薬膳の視点から見ると、鶏肉が最も消化にやさしく、牛肉や豚肉は体質に合わせて選ぶことが重要です。お湯の温度を70〜80℃に保ち、こまめに脂を取り除きながら、野菜から食べ始めることで、胃もたれのリスクを大幅に減らせるでしょう。

何より大切なのは、適量を守り、ゆっくりと味わって食べること。そして、生姜や大根おろしなどの薬味を活用し、食後には温かいお茶で胃腸をいたわることです。これらのポイントを意識するだけで、しゃぶしゃぶがさらに胃にやさしい料理になるはず。

あなたの体質と体調に合わせて、今日から実践できることから始めてみてください。 きっと胃腸の調子が整い、もっと楽しくしゃぶしゃぶを味わえるようになるでしょう!