「するめ」や「煮干し」と聞くと、おつまみやだしのイメージが強いかもしれません。けれども薬膳の視点から見ると、これらの海の乾物は、体に必要なミネラルを効率よく補給でき、腎を養い、骨や血を強くする優れた食材です。

噛めば噛むほど味わい深く、栄養がじわじわと体に染み渡る。するめと煮干しは、まさに「噛むだけ薬膳」として、忙しい現代人にぴったりの養生食です。この記事では、するめと煮干しの薬膳的な魅力から、体質別・季節別の取り入れ方、簡単に続けられるレシピ、注意点まで、日常に活かせる知恵を丁寧にお届けします。


するめ・煮干しは「食べるミネラル水」──薬膳的に見た魅力

するめの薬膳的特徴:鹹味(かんみ)×温性で”腎”を補う

するめは、イカを干して作られる乾物で、薬膳では「温性」「鹹味(かんみ)」に分類されます。温性とは、体を内側から温める性質のこと。冷え性の人や、寒い季節に適した食材です。

鹹味とは、塩辛い味を指し、薬膳では「腎(じん)」に働きかける味とされています。腎とは、生命エネルギーの源である「精(せい)」を蓄え、成長・発育・生殖・老化をコントロールする臓器です。現代医学でいう腎臓だけでなく、ホルモンバランスや免疫力、骨や歯の健康、耳の機能なども含む、広い概念です。

するめの鹹味は、腎に栄養を送り、精を補う働きがあります。疲れやすい、腰や膝がだるい、白髪が増えた、物忘れが多くなった、耳鳴りがするといった症状は、腎の衰えのサインかもしれません。するめを日常的に取り入れることで、腎を養い、老化を穏やかにする助けになります。

また、するめは噛む回数が多くなるため、唾液の分泌が促され、消化を助けます。よく噛むことで満腹感も得られ、食べすぎを防ぐ効果もあります。

煮干しの薬膳的特徴:平性×鹹味で”骨と血”を養う

煮干しは、小魚をまるごと乾燥させた食材で、薬膳では「平性」「鹹味」に分類されます。平性とは、体を温めも冷やしもしない、穏やかな性質のこと。体質を選ばず、誰でも安心して食べられる食材です。

煮干しも鹹味を持ち、腎に働きかけます。さらに、小魚を頭から尻尾までまるごと使うため、カルシウムやマグネシウム、リン、亜鉛といったミネラルが豊富に含まれています。これらのミネラルは、骨や歯を丈夫にし、血液の質を高め、神経の働きを整える役割を担います。

薬膳では、煮干しは「補腎強骨(ほじんきょうこつ)」といって、腎を補い骨を強くする働きがあるとされています。成長期の子どもや、骨粗しょう症が気になる高齢者、妊娠中や授乳中の女性にも適した食材です。

また、煮干しに含まれるDHAやEPAといった不飽和脂肪酸は、血液をサラサラにし、脳の働きを活性化させます。記憶力の低下や集中力の欠如が気になるときにも、煮干しは頼りになる存在です。

海の乾物が「気・血・水」を巡らせる理由

薬膳では、体の健康は「気・血・水」の3つがバランス良く巡ることで保たれると考えます。するめや煮干しといった海の乾物は、この3つすべてに良い影響を与えます。

まず、「気」について。するめや煮干しに含まれるタンパク質やビタミンB群は、体のエネルギー源となり、気を補います。疲れやすい、やる気が出ない、息切れしやすいといった気の不足を改善します。

次に、「血」について。煮干しに豊富な鉄分や亜鉛は、血液の材料となり、血を養います。貧血気味の人や、顔色が悪い人、爪が割れやすい人には、煮干しが特におすすめです。

最後に、「水」について。するめや煮干しの鹹味は、体内の水分代謝を調整し、余分な水分を排出する「利水(りすい)」の働きもあります。むくみやすい、体が重だるいといった症状を和らげます。

海の乾物は、気・血・水のすべてを整える、バランスの取れた食材なのです。


なぜミネラル補給に「するめ」と「煮干し」が向いているのか?

現代人に不足しがちなミネラルとは(カルシウム・亜鉛・マグネシウム)

現代人の食生活では、ミネラル不足が深刻な問題となっています。特に不足しがちなのが、カルシウム、亜鉛、マグネシウムです。

カルシウムは、骨や歯の材料となるだけでなく、神経の伝達や筋肉の収縮、血液の凝固にも関わります。不足すると、骨粗しょう症やイライラ、不眠、筋肉のけいれんなどが起こりやすくなります。

亜鉛は、免疫力を高め、細胞の新陳代謝を促し、味覚を正常に保つ働きがあります。不足すると、風邪をひきやすい、肌荒れ、脱毛、味覚障害などが現れます。

マグネシウムは、エネルギー代謝や筋肉の働き、精神の安定に欠かせません。不足すると、疲労感、こむら返り、不整脈、不安感などが起こりやすくなります。

するめや煮干しには、これらのミネラルが豊富に含まれており、手軽に補給できます。特に、煮干しはカルシウムの宝庫で、100gあたり約2200mgものカルシウムが含まれています。これは、牛乳の約20倍の量です。

乾物は栄養が凝縮される──”噛むほどに栄養チャージ”の秘密

乾物の最大の特徴は、水分が抜けることで、栄養が凝縮されることです。するめは生のイカと比べて、タンパク質は約3倍、亜鉛は約5倍に増えます。煮干しも、生の小魚と比べて、カルシウムやマグネシウムが大幅に増加します。

また、乾物は保存性が高く、常温で長期間保存できます。冷蔵庫に入れる必要がなく、いつでも手軽に食べられるのも魅力です。

するめや煮干しは、硬くて噛み応えがあるため、よく噛む必要があります。よく噛むことで、唾液の分泌が促され、消化酵素が働きやすくなります。また、咀嚼によって満腹中枢が刺激され、少量でも満足感が得られます。

噛むほどに味わいが深まり、栄養が体に染み渡る。するめや煮干しは、まさに「噛むだけ薬膳」として、現代人の養生にぴったりの食材です。

乳製品よりも手軽?薬膳的に見た「海のミネラル」活用術

カルシウムといえば牛乳やチーズといった乳製品を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、薬膳の視点から見ると、乳製品は体を冷やし、湿(余分な水分)を生みやすい性質があります。胃腸が弱い人や、むくみやすい人、乳糖不耐症の人には、負担になることがあります。

一方、するめや煮干しといった海のミネラル源は、体を温め、利水作用もあるため、冷えやむくみを気にせずに摂取できます。また、乳製品が苦手な人でも、海の乾物なら抵抗なく食べられることが多いです。

さらに、するめや煮干しは、だしを取ったり、そのまま食べたり、粉末にしてふりかけにしたりと、使い道が豊富です。料理にちょい足しするだけで、自然にミネラル補給ができます。

乳製品に頼らず、海の恵みを活かすことで、体に優しく、バランスの取れたミネラル補給ができるのです。


薬膳の理論で考える:体質別・季節別の取り入れ方

冷え性タイプには”生姜×するめ”が相性抜群

冷え性の人は、体を温める「温性」の食材を積極的に取り入れましょう。するめは温性なので、冷え性の人にぴったりです。さらに、生姜を組み合わせることで、温める力が倍増します。

生姜は薬膳では「温中散寒(おんちゅうさんかん)」といって、体の中心を温め、冷えを追い出す働きがあります。するめを食べるときに、生姜の千切りや、生姜を使った甘酢漬けにすることで、冷え対策が強化されます。

また、するめを軽く炙って、生姜湯や温かいお茶と一緒に食べるのもおすすめです。体の芯から温まり、血行が促されます。冬場や冷房の効いた室内で過ごす時間が長い人には、特に効果的です。

疲れやすいタイプは”煮干し×黒豆”で気血補給

疲れやすい、朝起きるのがつらい、食欲がない、顔色が悪いといった症状がある人は、「気虚(ききょ)」や「血虚(けっきょ)」といって、気や血が不足している可能性があります。

煮干しは、気と血を補う働きがあります。さらに、黒豆を組み合わせることで、補気補血の効果が高まります。黒豆は薬膳では「補腎益精(ほじんえきせい)」といって、腎を補い、精を増やす働きがあります。また、黒豆には鉄分や食物繊維も豊富で、貧血予防や腸内環境の改善にも役立ちます。

煮干しと黒豆を使ったスープや、煮干しだしで黒豆を煮た料理は、疲れやすい人にぴったりの薬膳メニューです。日常的に取り入れることで、体力の底上げができます。

梅雨〜夏は”昆布・わかめ”と合わせて利水(むくみ)ケア

梅雨や夏は湿気が多く、体に水分が溜まりやすい季節です。むくみ、体の重だるさ、食欲不振、下痢といった症状が出やすくなります。

このような時期には、利水作用のある食材を組み合わせましょう。昆布やわかめといった海藻類は、利水効果が高く、体内の余分な水分を排出します。煮干しだしに昆布を加えたり、するめと昆布の佃煮を作ったりすることで、むくみ対策になります。

また、小豆やはと麦、冬瓜といった利水食材と組み合わせるのも効果的です。煮干しだしで小豆を煮たスープや、はと麦入りの味噌汁は、梅雨時期の養生にぴったりです。

季節に合わせた組み合わせを意識することで、するめや煮干しの効果を最大限に引き出せます。


実践!簡単に続けられる薬膳ミネラル補給レシピ

①煮干し×昆布の合わせだし:日常の料理を薬膳化

煮干しと昆布の合わせだしは、最もシンプルで効果的なミネラル補給法です。だしを取るだけで、カルシウム、マグネシウム、ヨウ素といったミネラルが自然に摂取できます。

作り方

  1. 水1リットルに対して、煮干し20g、昆布10gを入れ、冷蔵庫で一晩浸します。
  2. 翌朝、鍋に移して中火にかけ、沸騰直前に昆布を取り出します。
  3. 煮干しはそのまま弱火で5分ほど煮出し、濾します。

このだしは、味噌汁、煮物、スープ、炊き込みご飯など、あらゆる料理に使えます。だしを取った後の煮干しと昆布も、刻んで佃煮にしたり、ふりかけにしたりして、無駄なく活用しましょう。

だしを冷蔵庫で2〜3日、冷凍庫で1ヶ月ほど保存できます。多めに作って小分け冷凍しておけば、忙しい日でもすぐに使えて便利です。

②するめの甘酢漬け:消化を助けて疲労回復

するめの甘酢漬けは、するめの硬さを和らげ、食べやすくする調理法です。酢には消化を助け、疲労回復を促す働きがあります。

作り方

  1. するめを食べやすい大きさに切ります。
  2. 酢、みりん、醤油を2:1:1の割合で混ぜ、砂糖を少々加えます。
  3. 保存容器にするめを入れ、調味液を注ぎ、冷蔵庫で半日以上漬けます。
  4. 好みで生姜の千切りや、鷹の爪を加えても美味しいです。

するめが柔らかくなり、噛みやすくなります。おつまみやお弁当のおかず、箸休めにぴったりです。冷蔵庫で1週間ほど保存できます。

酢の酸味が、するめの鹹味と調和し、食欲を増進させます。疲れているときや、食欲がないときにも食べやすい一品です。

③ミネふり(粉末するめ&煮干し)で毎日のごはんに

するめや煮干しを粉末にして、ふりかけとして使う方法です。これなら、硬くて噛みにくいと感じる人や、子ども、高齢者でも手軽にミネラル補給ができます。

作り方

  1. するめや煮干しを、フードプロセッサーやミルで細かく粉砕します。
  2. フライパンで乾煎りして、香ばしさを出します。
  3. 好みで白ごま、青のり、鰹節、塩を混ぜます。

このミネふりは、ご飯にかけるだけでなく、おにぎり、パスタ、サラダ、豆腐、納豆など、あらゆる料理にちょい足しできます。常温で保存でき、いつでも使えるので、忙しい人にぴったりです。

毎日の食事にさりげなくミネラルを足すことで、無理なく栄養バランスが整います。


注意点:ミネラルは”多すぎても”NG。塩分・プリン体に注意

塩分控えめにするなら「水出し・酢漬け」がおすすめ

するめや煮干しには、自然な塩分が含まれています。そのまま食べたり、濃いだしを取ったりすると、塩分の摂りすぎになることがあります。

塩分を控えたい人は、「水出し」や「酢漬け」を活用しましょう。水出しでだしを取ると、塩分が抑えられ、まろやかな味わいになります。酢漬けにすることで、酢の酸味が塩分を補い、少ない塩分でも満足感が得られます。

また、するめや煮干しをそのまま食べるときは、一度に大量に食べず、少量をよく噛んで食べるようにしましょう。よく噛むことで満腹感が得られ、食べすぎを防げます。

痛風・腎機能が気になる人は少量から様子見を

煮干しやするめには、プリン体が含まれています。プリン体は、体内で尿酸に変わり、過剰に摂取すると痛風の原因になることがあります。痛風や高尿酸血症の方は、煮干しやするめの摂取量に注意が必要です。

また、腎機能が低下している人は、カリウムやリンの摂取制限が必要な場合があります。煮干しにはこれらのミネラルが豊富に含まれているため、医師や管理栄養士と相談しながら、適量を見極めましょう。

健康な人でも、毎日大量に食べることは避け、少量を継続的に摂ることが大切です。薬膳では、「過ぎたるは及ばざるが如し」という考え方があります。適度な量を守ることが、健康への近道です。

子ども・高齢者向けは”柔らか加工”で安全に摂取

するめや煮干しは硬いため、小さな子どもや、歯が弱い高齢者には食べにくいことがあります。喉に詰まらせる危険もあるため、工夫が必要です。

子どもや高齢者には、柔らか加工をしましょう。するめは甘酢漬けにして柔らかくしたり、細かく刻んでスープや炒め物に混ぜたりします。煮干しは、だしを取った後の柔らかくなったものを刻んで使う、粉末にしてふりかけにする、といった方法が安全です。

また、一度に大きなものを与えず、小さくちぎって、ゆっくり噛むように促しましょう。食事中はそばで見守り、安全に配慮することが大切です。

工夫次第で、年齢を問わず、するめや煮干しのミネラルを安全に取り入れることができます。


+α学びたい人へ:海の薬膳素材の応用と組み合わせ

干し海老・昆布・干し椎茸との相乗効果

するめや煮干しだけでなく、他の海の薬膳素材と組み合わせることで、効果がさらに高まります。

干し海老は、温性で腎を補う働きがあります。カルシウムやキチン質が豊富で、骨を強くし、免疫力を高めます。煮干しと干し海老を合わせてだしを取ると、うま味が増し、栄養価も高まります。

昆布は、涼性で利水作用があります。ミネラルや食物繊維が豊富で、腸内環境を整え、余分な水分を排出します。煮干しと昆布の合わせだしは、バランスが良く、日常使いに最適です。

干し椎茸は、平性で健脾・補気の働きがあります。煮干しと干し椎茸を組み合わせることで、気を補い、胃腸を強くする効果が高まります。疲れやすい人や、食欲がない人におすすめの組み合わせです。

これらの素材を上手に組み合わせることで、薬膳の効果を最大限に引き出せます。

“海の気を補う”献立例:だし・副菜・間食に活かす

海の薬膳素材を日常の献立に取り入れる例を紹介します。

朝食

  • 煮干し×昆布だしの味噌汁
  • ごはんに「ミネふり」(するめ・煮干しの粉末ふりかけ)
  • 焼き魚(鮭やアジ)

昼食

  • 煮干しだしのうどんまたはそば
  • 昆布と干し椎茸の炊き込みご飯
  • するめの甘酢漬けを箸休めに

夕食

  • 煮干しと干し海老のだしで作った鍋
  • 温野菜(人参・大根・ほうれん草)
  • 黒豆の煮物

間食

  • するめをそのまま噛む(生姜湯と一緒に)
  • 煮干しのアーモンド和え

このように、1日の中で自然に海の薬膳素材を取り入れることで、無理なくミネラル補給ができます。

薬膳の「腎を養う」考え方と、長寿の食卓づくり

薬膳では、「腎を養うことが長寿の秘訣」とされています。腎は生命エネルギーの源であり、腎が元気であれば、老化が穏やかになり、健康寿命が延びます。

腎を養うためには、鹹味の食材を適度に取り入れることが大切です。するめ、煮干し、昆布、わかめ、干し海老といった海の恵みは、すべて鹹味を持ち、腎を補います。

また、黒い食材も腎を養うとされています。黒豆、黒ごま、黒きくらげ、ひじきなど、黒い食材を海の乾物と組み合わせることで、腎を養う力がさらに高まります。

長寿の食卓づくりは、特別なことをするのではなく、毎日の食事にこうした食材を少しずつ取り入れることから始まります。するめや煮干しを噛む習慣をつけることで、腎が養われ、体の土台が強くなります。

薬膳の知恵を活かして、今日から「腎を養う食卓」を作ってみましょう。


まとめ

するめと煮干しは、噛むだけで自然にミネラル補給ができる、優れた薬膳食材です。体を温め、腎を補い、骨と血を養う働きがあり、現代人に不足しがちなカルシウム、亜鉛、マグネシウムを効率よく摂取できます。

体質や季節に合わせて、生姜や黒豆、昆布といった食材と組み合わせることで、効果がさらに高まります。だしを取る、甘酢漬けにする、粉末にしてふりかけにするなど、工夫次第で毎日の食事に無理なく取り入れられます。

ただし、塩分やプリン体に注意し、適量を守ることが大切です。子どもや高齢者には、柔らか加工をして安全に食べられるようにしましょう。

するめと煮干しを日常に取り入れることで、腎が養われ、体の土台が強くなります。噛むほどに栄養が染み渡る「噛むだけ薬膳」を、今日から始めてみてください。