「イワシは体に良い」と聞いたことがある人は多いでしょう。けれども、なぜ体に良いのか、どう食べれば効果的なのかを知っている人は、意外と少ないかもしれません。薬膳の視点から見ると、イワシは体を温め、血を補い、骨を強くする優れた食材です。

特に注目すべきは、イワシのカルシウム含有量の豊富さと、骨ごと食べられる手軽さです。この記事では、イワシの薬膳的な効能から、カルシウムを効率よく摂る方法、体質や季節に合わせた食べ方、無駄にしないための注意点まで、日常に活かせる知恵をお届けします。


イワシは薬膳でどんな食材?|体を温め、血を補う”気血を養う魚”

薬膳の分類で見るイワシ(性味=温、五味=甘・鹹)

薬膳では、イワシは「温性」「甘味・鹹味(かんみ)」に分類されます。温性とは、体を内側から温める性質のこと。冷え性の人や、寒い季節に適した食材です。イワシを食べることで、体が芯から温まり、血行が促されます。

甘味は、薬膳では「脾(ひ)」に働きかけ、気を補い、体を養う味です。鹹味は「腎(じん)」に働きかけ、体の深部に栄養を送り、生命力の源を補う味です。イワシは甘味と鹹味の両方を持つため、脾と腎の両方を養い、気と精を補う働きがあります。

また、イワシは「補気養血(ほきようけつ)」といって、体のエネルギーである「気」を補い、血液の質と量を高める食材とされています。疲れやすい、顔色が悪い、冷えやすいといった症状を持つ人に、特におすすめです。

イワシが体にもたらす主な効能(血行促進・疲労回復・滋養強壮)

イワシには、薬膳的にいくつもの効能があります。

まず、血行促進です。イワシに含まれるEPAやDHAといった不飽和脂肪酸は、血液をサラサラにし、血の巡りを良くします。薬膳では、これを「活血(かっけつ)」といいます。冷えや肩こり、生理痛、血色の悪さに悩む人には、イワシの活血作用が役立ちます。

次に、疲労回復です。イワシは良質なタンパク質やビタミンB群を豊富に含み、エネルギー代謝を助けます。気を補う働きもあるため、疲れやすい、だるい、やる気が出ないといった症状を改善します。

そして、滋養強壮です。イワシは腎を補う食材であり、成長・発育・生殖に関わる生命力を高めます。成長期の子どもや、体力が落ちている高齢者、妊娠中や授乳中の女性にも適しています。

イワシは、小さいながらも、体を支える大きな力を持つ魚なのです。

どんな体質の人に向いている?(冷え性・貧血・成長期の子ども)

イワシは、特に次のような体質の人に向いています。

冷え性の人:イワシの温性は、体を温め、冷えを改善します。手足が冷たい、お腹が冷えやすい、寒がりといった症状がある人は、イワシを日常的に取り入れることで、冷えが和らぎます。

貧血気味の人:イワシには鉄分やビタミンB12が含まれており、血を補う働きがあります。顔色が悪い、めまいがする、爪が割れやすいといった血虚の症状がある人には、イワシが助けになります。

成長期の子ども:イワシはカルシウムやタンパク質が豊富で、骨や筋肉の成長を助けます。また、DHAは脳の発達にも欠かせません。成長期の子どもには、積極的に取り入れたい食材です。

疲れやすい人:気が不足している人は、イワシの補気作用で体力がつきます。朝起きるのがつらい、午後に眠くなる、風邪をひきやすいといった症状がある人にも向いています。

自分の体質を見極めて、イワシを上手に取り入れましょう。


イワシのカルシウム量はどのくらい?|驚くほど”骨ごと食べられる栄養魚”

100gあたりのカルシウム含有量比較(牛乳・小松菜・しらすとの比較)

イワシのカルシウム含有量は、調理法や形態によって異なります。生のイワシ(真イワシ)100gには、約70mgのカルシウムが含まれています。これは牛乳(約110mg/100g)よりは少ないですが、骨ごと食べられる形になると、カルシウム量は大幅に増えます。

イワシの丸干し(骨ごと):100gあたり約440mg 煮干し(カタクチイワシ):100gあたり約2200mg オイルサーディン(骨ごと):100gあたり約350mg

煮干しのカルシウム量は、牛乳の約20倍、小松菜(約170mg/100g)の約13倍にもなります。骨ごと食べることで、これほどまでにカルシウムを効率よく摂取できるのです。

しらす干し(100gあたり約520mg)や、ししゃも(100gあたり約330mg)も優れたカルシウム源ですが、煮干しの含有量には及びません。煮干しは、最も手軽で高濃度のカルシウム補給源と言えます。

丸ごと食べられる「小イワシ・煮干し・干物」が最強な理由

イワシがカルシウム補給に優れている最大の理由は、「骨ごと食べられる」ことです。カルシウムは、魚の骨に最も多く含まれています。通常の大きな魚は骨を取り除いて食べますが、イワシは小さいため、骨ごと食べられます。

特に、小イワシや煮干し、丸干しといった形態は、骨が柔らかく、丸ごと食べやすくなっています。乾燥させることで水分が抜け、栄養が凝縮されるため、カルシウムの含有量も増えます。

また、骨ごと食べることで、カルシウムだけでなく、リン、マグネシウム、亜鉛といった他のミネラルもバランス良く摂取できます。これらのミネラルは、骨の形成や維持に欠かせません。

イワシを丸ごと食べることは、自然の栄養バランスをそのまま体に取り入れることであり、薬膳の「一物全体(いちぶつぜんたい)」という考え方にも通じます。

イワシのカルシウム吸収を助ける栄養素(ビタミンD・EPA・DHA)

カルシウムを摂取しても、吸収されなければ意味がありません。イワシには、カルシウムの吸収を助ける栄養素も豊富に含まれています。

ビタミンD:イワシにはビタミンDが豊富に含まれており、カルシウムの腸での吸収を促進します。また、骨へのカルシウムの沈着も助けます。ビタミンDは日光を浴びることでも体内で作られますが、日照時間が少ない冬や、室内で過ごすことが多い人には、食事からの摂取が重要です。

EPA・DHA:イワシに含まれるEPAやDHAは、血液をサラサラにし、血流を改善します。血流が良くなることで、カルシウムを含む栄養素が体の隅々まで届きやすくなります。

また、イワシには適度な脂質が含まれており、脂溶性ビタミンであるビタミンDの吸収を助けます。イワシは、カルシウムを摂るだけでなく、それを効率よく吸収し、活用するために必要な栄養素がすべて揃った、理想的な食材なのです。


薬膳的に見る「カルシウムを活かす」組み合わせ食材

吸収率を上げる薬膳食材(黒ごま・味噌・海藻・酢)

カルシウムの吸収率を高めるためには、相性の良い食材と組み合わせることが大切です。

黒ごま:黒ごまは薬膳では「補腎益精(ほじんえきせい)」といって、腎を補い、骨を強くする働きがあります。カルシウムとマグネシウムがバランス良く含まれており、イワシと一緒に摂ることで、骨の健康を支えます。イワシの煮物に黒ごまをふりかける、ごま和えにするといった使い方がおすすめです。

味噌:味噌は発酵食品で、腸内環境を整える働きがあります。腸が健康であれば、カルシウムの吸収率も高まります。イワシの味噌煮は、薬膳的にも理にかなった組み合わせです。

海藻:昆布やわかめといった海藻には、カルシウムやマグネシウムが豊富です。イワシのだしに昆布を加えたり、わかめと一緒に煮たりすることで、ミネラルバランスが整います。

:酢には、カルシウムを溶けやすくし、吸収を助ける働きがあります。イワシの南蛮漬けや、酢の物にすることで、カルシウムが体に取り込まれやすくなります。また、酢には疲労回復効果もあり、イワシの補気作用と相まって、疲れやすい人に最適です。

体を温める組み合わせ(生姜・ねぎ・にんにく)

イワシは温性ですが、さらに温める力を高めたいときは、生姜、ねぎ、にんにくといった温補食材と組み合わせましょう。

生姜:生姜は薬膳では「温中散寒(おんちゅうさんかん)」といって、体の中心を温め、冷えを追い出します。イワシのつみれ汁に生姜を加える、煮物に生姜を入れることで、冷え性の改善効果が高まります。

ねぎ:ねぎは温性で、血行を促し、風邪の初期症状を改善します。イワシの焼き物にねぎを添える、つみれ汁に長ねぎを入れることで、温補効果がアップします。

にんにく:にんにくは温性で、気を巡らせ、体を温める力が強いです。イワシのガーリック炒めや、にんにく風味の煮物にすることで、疲労回復と冷え対策を同時に行えます。

冷え性の人や、寒い季節には、これらの温補食材をたっぷり使いましょう。

イワシと相性の良い調理例(味噌煮・梅煮・南蛮漬け)

イワシの調理法は、薬膳的な効能を引き出すために工夫できます。

味噌煮:味噌の発酵パワーと、イワシの補気養血が組み合わさり、胃腸を整えながら栄養補給ができます。生姜を加えることで、冷え対策にもなります。骨まで柔らかく煮ることで、カルシウムも丸ごと摂取できます。

梅煮:梅は酸味があり、薬膳では「収斂(しゅうれん)」といって、体液の消耗を防ぎ、疲労回復を助けます。また、梅の酸がカルシウムの吸収を促進します。イワシの梅煮は、疲れやすい人や、食欲がない人におすすめです。

南蛮漬け:酢を使った南蛮漬けは、カルシウムの吸収を助けるだけでなく、食欲を増進させます。夏場の暑さで食欲が落ちているときや、疲労が溜まっているときにぴったりです。唐辛子を加えることで、さらに温補効果が高まります。

調理法を変えることで、イワシの楽しみ方が広がります。


カルシウムを”無駄にしない”ための注意点

塩分・リンの摂りすぎに注意(加工食品・スナックの落とし穴)

イワシや煮干しには、自然な塩分が含まれています。また、カルシウムと一緒にリンも多く含まれています。リンは骨の形成に必要ですが、過剰摂取するとカルシウムの吸収を妨げることがあります。

特に、加工食品やスナック菓子、インスタント食品には、リンが添加されていることが多く、現代人はリンを摂りすぎる傾向があります。イワシでカルシウムを摂るなら、加工食品を控えめにし、リンのバランスを意識しましょう。

塩分についても、煮干しや丸干しをそのまま大量に食べると、塩分過多になりやすいです。だしを取るときは水出しにする、酢漬けにして塩分を控える、少量をよく噛んで食べるといった工夫が必要です。

胃腸が弱い人は”消化を助ける薬膳”を取り入れる

イワシは栄養豊富ですが、脂質も含まれているため、胃腸が弱い人には負担になることがあります。胃もたれ、下痢、食欲不振といった症状が出やすい人は、消化を助ける薬膳食材と組み合わせましょう。

大根おろし:大根には消化酵素が含まれており、脂質の消化を助けます。イワシの焼き物に大根おろしを添えることで、胃腸への負担が軽減されます。

生姜:生姜は胃腸を温め、消化を促進します。イワシ料理に生姜を加えることで、胃もたれを防げます。

梅干し:梅干しは酸味で消化液の分泌を促し、食欲を増進させます。イワシの梅煮は、胃腸が弱い人にも優しい調理法です。

胃腸の状態に合わせて、調理法や組み合わせを調整しましょう。

食べすぎによる体への負担(プリン体・脂質への配慮)

イワシには、プリン体が含まれています。プリン体は体内で尿酸に変わり、過剰摂取すると痛風の原因になることがあります。痛風や高尿酸血症の方は、イワシの摂取量に注意が必要です。

また、イワシには脂質も含まれており、食べすぎると脂質過多になることがあります。特に、揚げ物や油漬けにすると、脂質の量が増えます。

健康な人でも、毎日大量に食べるのではなく、週に2〜3回、適量を楽しむことが大切です。薬膳では、バランスと適度が何よりも重要です。


季節と体質に合わせた薬膳的イワシレシピ

冬におすすめ|生姜入りイワシのつみれ汁(温補+骨強化)

冬は寒さで体が冷え、エネルギーを消耗しやすい季節です。イワシのつみれ汁は、体を温め、気と血を補う理想的な薬膳メニューです。

材料(2人分)

  • イワシ(手開きにしたもの):4尾分
  • 生姜のすりおろし:小さじ1
  • 味噌:小さじ1
  • 片栗粉:大さじ1
  • 長ねぎ(小口切り):適量
  • だし汁(昆布・煮干し):400ml
  • 醤油・塩:少々

作り方

  1. イワシを包丁で細かくたたき、生姜、味噌、片栗粉を混ぜ、つみれの種を作ります。
  2. だし汁を鍋で温め、スプーンで種をすくって落とし入れます。
  3. つみれが浮いてきたら、長ねぎを加え、醤油と塩で味を整えます。

生姜の温補効果と、イワシのカルシウムが同時に摂れ、冷え性や骨の弱い人に最適です。

春におすすめ|梅煮イワシ(肝の働きを整える)

春は、薬膳では「肝(かん)」の季節とされています。肝は気の巡りを司り、ストレスや情緒の安定に関わります。梅の酸味は肝を養い、気の巡りを整えます。

材料(2人分)

  • イワシ:4尾
  • 梅干し:2個
  • 醤油・みりん・酒:各大さじ2
  • 水:200ml
  • 生姜の薄切り:2枚

作り方

  1. イワシは内臓を取り、水で洗います。
  2. 鍋に調味料、水、梅干し、生姜を入れて煮立てます。
  3. イワシを加え、落とし蓋をして弱火で15分ほど煮ます。

梅の酸味がイワシの臭みを消し、さっぱりと食べられます。ストレスが多い人におすすめです。

夏におすすめ|南蛮漬け(食欲不振・だるさ解消)

夏は暑さで食欲が落ち、体がだるくなりがちです。酢を使った南蛮漬けは、食欲を増進させ、疲労回復を助けます。

材料(2人分)

  • イワシ:4尾
  • 玉ねぎ(薄切り):1/2個
  • 人参(千切り):少々
  • ピーマン(千切り):1個
  • 酢:大さじ3
  • 醤油・みりん:各大さじ2
  • 砂糖:小さじ1
  • 唐辛子:1本

作り方

  1. イワシは三枚におろし、片栗粉をまぶして揚げます。
  2. 野菜と調味料を混ぜた漬け汁を作ります。
  3. 揚げたてのイワシを漬け汁に浸し、冷蔵庫で半日以上漬けます。

酢の酸味とイワシのうま味が絶妙で、夏バテ予防にぴったりです。


カルシウム補給に役立つ他の魚&薬膳的バランスのとり方

ししゃも・しらす・干しエビとの比較

イワシ以外にも、骨ごと食べられる魚介類があります。

ししゃも:100gあたり約330mgのカルシウムを含みます。平性で、気を補う働きがあります。イワシより脂質が少なく、あっさりしています。

しらす:100gあたり約520mgのカルシウムを含みます。平性で、胃腸を整える働きがあります。柔らかく、子どもや高齢者にも食べやすいです。

干しエビ:100gあたり約7100mgのカルシウムを含みます。温性で、腎を補う力が強いです。だしや炒め物に使うと便利です。

これらの食材を日替わりで取り入れることで、飽きずにカルシウム補給ができます。

骨を強くする”三位一体”の食べ方(カルシウム×マグネシウム×ビタミンD)

骨を強くするには、カルシウムだけでなく、マグネシウムとビタミンDも必要です。この3つをバランス良く摂ることが、薬膳的にも理想的です。

カルシウム:イワシ、煮干し、しらす、昆布 マグネシウム:黒ごま、アーモンド、ひじき、海藻 ビタミンD:イワシ、鮭、干し椎茸、きくらげ

これらを組み合わせた食事を意識しましょう。たとえば、イワシの煮物に黒ごまをふりかけ、干し椎茸のだしを使った味噌汁を添えれば、三位一体が揃います。

毎日の食卓で無理なく取り入れるコツ(ふりかけ・味噌汁・おにぎりなど)

イワシを毎日の食事に取り入れるには、手軽な形を活用しましょう。

ふりかけ:煮干しやイワシの丸干しを粉末にして、ごはんにかけます。手軽にカルシウム補給ができます。

味噌汁:煮干しだしの味噌汁を毎朝飲む習慣をつけましょう。だしを取った後の煮干しも、刻んで味噌汁の具にできます。

おにぎり:しらすやちりめんじゃこを混ぜ込んだおにぎりは、子どものお弁当にもぴったりです。

常備菜:イワシの梅煮や味噌煮を作り置きしておけば、忙しい日でもすぐに食べられます。

無理なく続けることが、健康への近道です。


まとめ

イワシは、薬膳的に見ても、栄養学的に見ても、優れた食材です。体を温め、血を補い、骨を強くする働きがあり、特にカルシウム補給には最適です。骨ごと食べられる小イワシや煮干しは、手軽で高濃度のカルシウム源となります。

黒ごまや味噌、海藻、酢といった相性の良い食材と組み合わせることで、カルシウムの吸収率が高まります。季節や体質に合わせた調理法を選ぶことで、イワシの効能を最大限に引き出せます。

塩分やプリン体に注意しながら、適量を楽しむことが大切です。毎日の食卓にイワシを取り入れて、骨も体も元気に保ちましょう。